湯ヶ島たつた 温泉物語

昭和から平成に変わる頃、多くの旅館がそうであったように湯ヶ島たつた(当時たつた旅館)では温泉を効率よく使用する方法を用いていた。揚げた温泉をタンクに入れ館内の配管を通り浴場に注ぐ。浴槽内には排水口があり引き込まれた温泉はろ過装置に入りボイラーにより温度が調整され塩素系の消毒を行い、再度湯口に注ぐ循環システムだ。

この方法を取ると一定の温度で湯を提供することがでる。温泉は生き物とよく言われているが確かに一日ごとに温泉の温度は変化しており循環システムならそういった変化にも難なく対応できる。また、使用する温泉量も少なく済むので温泉料金、下水道料金も抑えられ経費削減に繋がり、少ない温泉量でも十分やりくりができる、旅館経営にはかかせないものだ。さらにプールのように塩素系の消毒を行うため温泉の成分を栄養とするコケが生える事もなく菌の抑制にもなる。法律内でも一週間に一度の換水で合法とされているのでその消毒の強さは明らかだ。実際多くの施設はこの仕組みを利用しおもてなしを行っている。たつたも例外ではなかった。

しかし、温泉は人の手が加わると効能や魅力は大きく損なわれてしまう。毎日温泉を変えない、使い回す、プールの匂いのする温泉に果たして温泉としての魅力はどれだけ残っているのだろうか。天城湯ヶ島は温泉が豊かな地域であり周りの共同浴場はどこも本物の温泉を提供し地域住民にとっては源泉のままの温泉であることは特別でもなんでもない、当たり前のことだった。

そしてたつたは、便利で効率的でコスパのよい循環システムを、捨てた。

たつたの自家源泉だけでは湯量・湯温などの条件が合わず天城湯ヶ島に湧く3つの源泉を新たに引き入れ混合し豊富な湯量とちょうどよい温度を手に入れた。高低差や水流の強さによって流れる湯量が変わるのでバルブの開け方や順番を研究・調整を行うのだが、源泉の温度が日によって変わり、バルブ調整が少しずれるだけで1〜2℃の変化が出てくる。ご満足いただける温度での提供ができない日も多かった。さらに清掃も1週間に一度から毎日の清掃に変えたため、人的労力もそれまでの比ではなく大変な労力を必要としたが、100%源泉掛け流しの温泉を実現するために試行錯誤を行い、できる限り気持ちよく入浴いただける温泉提供ができるようになった。

未だに急激な気温変化や温度変化など自然のちからに圧倒される日もあるが、それでも源泉掛け流しにこだわるのは天城湯ヶ島の泉質は本当に素晴らしく一度入ればその違いを感じていただけると知っているからであり、それぞれ違う趣きを持たせた貸切風呂や大浴場で景色や風情を感じながら100%天城湯ヶ島の温泉を味わっていただきたいと願うばかりだ。